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京都地方裁判所 昭和38年(ワ)863号 決定 1965年3月30日

原告 坂本よし子

被告 日本電信電話公社

訴訟代理人 鰍沢健三

主文

一、当裁判所が昭和三九年一一月一一日になした文書送付嘱託決定を取り消す。

二、改めて、被告から昭和三九年一一月一〇日付書面をもつて申立のあつた文書の送付嘱託をする。

理由

一、当裁判所は、本件につき、被告からの昭和三九年一一月〇日付書面をもつてした期日前の被疑者坂本よし子、同桐村君子に対する公衆電気通信法違反被疑事件記録の送付嘱託の申立について、昭和三九年一一月一一日期日前に右被疑事件記録の送付嘱託をする決定をしたが、右決定を告知しないまま、裁判長に於て右記録の送付の嘱託をした。しかし決定は適当な方法を以つて告知しなければ、その効力を生じないものであるから、当裁判所のした右決定は未だ効力を生じていないのに、この決定を実施して送付の嘱託をしたのは手続上違法であるから、当裁判所は右違法な手続を是正するため、主文の通りさきにした決定を取消し、改めて被告の送付嘱託の申立を相当と認めて右送付嘱託をすることとする。

二、尚(イ) 文書の送付嘱託の申出は書証の申出の一方法であつて証拠の申出であるから当事者は口頭弁論期日前にこれをすることができ、裁判所も、期日外に於てその採否の決定をなしうるものであつて、このことは現行民事訴訟法の許容するところである。

(ロ) 更に刑事不起訴記録の送付嘱託をすることは、違法であるかを考えてみるのに、現行刑事訴訟法は公益上の必要その他相当の事由ありと認められる場合以外は原則として訴訟に関する書類の非公開を規定し(法第四七条)この訴訟書類の中には、不起訴記録も含まれると解されるので不起訴記録は被疑者の名誉保護及び関係人の利益保護の見地から濫りに公開すべきではないが、他面民事訴訟において真実発見のため証拠として取り調べる必要があると認められる場合には、その必要に優先する特別事由例えば余罪共犯等捜査のための秘密保持、あるいは被疑者及び関係人の名誉利益を特に保護する必要等の存しない限り、相当の事由がある場合に該当し許されるものと解するのが相当であるところ、本件不起訴記録については、公衆電気通信法違反被疑事件の捜査はすべて完了していて余罪共犯等の捜査をする可能性がない上、その被疑者である本件原告についても、その被疑事件内容は新聞、雑誌、テレビ等ですでに明らかにされていることは本件に於ける現在迄の証拠調の結果によつて明かであつて、現在特に被疑者の名誉利益のために公開を阻止する必要が存するとは認められないから、被告申出の刑事不起訴記録の送付嘱託をすることには何らの違法はない。

三、よつて、当裁裁判所が昭和三九年一一月一一日なした文書送付嘱託決定を取消すとともに、被告の文書送付嘱託の申立は相当と認めるから改めてこれを採用することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 喜多勝 白石嘉孝 塩崎勤)

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